自動車とはかつて『マイカー(愛車)』を買うのが当たり前で、古くはサラリーマンが一生懸命働いて、後には学生もアルバイトで頑張って頭金を貯めて購入する『憧れの1台』でした。それだけの魅力が自動車にはあったのですが、最近は価値観が大きく様変わりして『何も1人に1台、あるいは一家に1台なくてもいいんじゃないか?』と思われ始めています。そのキッカケとなったのが『自動車を共同で使うさまざまなサービス』ですが、そのひとつ『ライドシェア』とは何でしょうか?

タクシーとも違う相乗り方法『ライドシェア』

『ヒッチハイク』という旅の形態があります。高速道路のインターチェンジやサービスエリアに行き先を書いた札を持って立ち、あるいは単に親指を立てて道行く車へ合図を送り、親切にも同乗させてくれる車で目的地へ、あるいはその近くまで乗せていってもらう事。

それがインターネットの発達で、SNSなどを使って「同じ方向へ行く人!乗せていくよ!」という呼びかけが始まり、見知らぬ者同士がちょっとした旅の道連れをする『相乗り』が生まれるようになります。

1人より数人で車を使った方がCO2削減や交通環境改善にも役立つ事から、国によってはむしろ奨励する動きすらあったほど。

日本でも以前から交通環境の厳しい地域では、例えば最寄りの駅までの短距離などで、ラッシュ時にバスより早い移動手段として、1人500円などワンコインで定員ギリギリまで居合わせた客が乗り込む『タクシーの相乗り』は存在しました。

SNSなどで呼びかけられた『相乗り』はそれとは異なり、ガソリン代や高速代を出し合って都市間の長距離を共にする『旅は道連れ』的なプチオフ会的なものでしたが、いつしか『相乗りで商売になる』とサービス化する動きが出てきます。

それがアメリカのUber(ウーバー)やLyft(リフト)、シンガポールを中心に東南アジアで展開するGrab(グラブ)で、ライドシェアサービスに登録したドライバーや事業者を、『相乗り』を求める登録ユーザーへ配車するサービスです。

タクシーとは何が違うのか?

かつての「みんなで旅しようぜ!」的なものとは異なり、今やライドシェアは有料サービスとして世界的には定着しています。

スマートフォンのアプリでユーザーが車を呼ぶと、近隣のライドシェア登録ユーザーが車で迎えに行って目的地へ送り、ユーザーはサービス利用料をサービス運営会社へ支払い、ドライバーはサービス運営会社から手数料を差し引いた報酬を受け取る。

これだけ書くと、少なくとも日本では「タクシー配車アプリとどう違うの?」と思うかもしれません。タクシーの場合は、旅客を運ぶこと自体を目的として営業用車両多数を抱え、街を流したり利用客が数多く集まりそうな交通拠点(鉄道駅など)や繁華街で客待ちなど『日常的な営業』を常に行っています。

タクシー会社のタクシーであれば運転手は従業員ですし、基本給+歩合給といった給料や社会保険など社会保障サービスの対象であり、肩書きもタクシー会社の社員です。

個人タクシーの場合は個人事業主なのでタクシー会社の社員というわけではありませんが、同等のサービス(クレジットカード払いなど)を導入するため個人タクシーの協会に加入するケースが多くなっていますが、いずれにせよ旅客運送のための2種免許を必要としますし、タクシーで生計を立てています。

それに対し、ライドシェアはあくまで「個人や事業者の余暇を使い、所有車両を使ってドライブの相乗りで報酬を得る」というもので、タクシーとしての登録や2種免許を必要としません。

最近ではライドシェアサービスそのものが旅客用車両を配備するなど、スマホアプリで配車サービスを行うタクシーとの境目がなくなりつつあり、海外では個人タクシーがライドシェア登録するケースもありますが、純粋に「ヒマな個人と車の時間を、移動手段を求めているユーザーと結びつける」のがライドシェア本来の姿です。

その本来の姿の場合、『企業として営業車や運転手を抱えなくて済むので、ユーザーは移動費用が安く、ドライバーもタクシーをやっているより多くの報酬が受け取れる』という違いは、かなり大きなものがあります。

日本では白タク事業となり、個人の参入は認められていない

ユーザーにもドライバーにもメリットが大きいので世界的にはかなり普及しているライドシェアですが、日本では2014年からUberが東京へ進出したものの、タクシーやハイヤーの配車サービスに留まっており、全く普及していません。

一応、以前からの「ガソリン代や高速代を負担してよ」程度、つまり非営利目的のライドシェアならば、『notteco(のってこ)』など運営会社がドライバーが求める費用と仲介手数料を徴収するサービスが存在しています。

しかし運賃を徴収して利益を上げる営利目的の旅客運送サービスは2種免許とタクシーとして登録した事業者か
個人タクシーとして認可を受けた個人事業主に限られており、非営利の相乗り以外は『白タク』(営業用の緑ナンバーに対する自家用の白ナンバータクシー)として、違法なのです。

実際に旅客運送用の資格を取ってタクシーやハイヤーを運行している事業者や個人事業主からすれば、「何で苦労もせず登録だけでお金稼げると思ってる?」と、心情的にはごくごく当然の反発もあり、白ナンバー車のライドシェア参入は全く認められていません。

結果、今でも個人的に相乗りしたい、させたいという需要に対しては、「ちょっと交通費を折半して浮かしてくれればいいや」という好意的なドライバーがついでに乗せる形態に留まっています。

実際、2015年2月にUberが福岡市でライドシェアの実証実験を始めた時には、道路運送法違反のおそれがあるとして、国土交通省がただちに指導して中止させました。

日本におけるライドシェアのメリットとデメリット

とはいえ、世界的には既に日本を除いてかなりの国で普及しているサービスで、タクシーとも共存しています。UberやLyftなど大手はドライバーの評価システムやリアルタイムの走行データ収集システムや運行管理システムが存在するため、「怪しげな白タクと一緒にされてはたまらない」というのが正直なところです。

各国でタクシーと共存できているのも、会社ごとのサービスの均一性やドライバーの会社への帰属意識、プロフェッショナル意識といった違いがタクシードライバーには明確にあり、ユーザーはどのようなサービスを選択するかの自由もあるから。

それを日本に置き換えてみれば、「保守的なユーザーはタクシーに乗ればいいし、ライドシェアでいいやというユーザーはそれを選べばいいし、選択するのはユーザー」となります。

また、タクシーの場合は隣町程度の比較的短距離(片道数km~数十km)ならともかく、それを超えると荷重労働や営業地域での台数不足など営業上の不都合も生じてきますが、ライドシェアの場合はタクシー事業者が不都合を感じる範囲をカバーできるというメリットもあります。

料金体系を短距離ならタクシーが有利、中距離以上の都市間利用ならライドシェアが有利とすれば棲み分けは十分に可能に感じますが、登録ドライバーの認可をどうするかなど、管轄官庁の受け入れ態勢がなかなか整わない(あるいは整える気がまだない)のが実情かもしれません。

その上で簡単なメリット・デメリットを以下に記載します。

ライドシェアのメリット

・高齢化したタクシー運転手では難しい長距離旅客運送が、受け入れるドライバーさえいれば容易。
・さまざまな車種やドライバースキルから、ユーザーが選択できる。
・登録ドライバーの都合に合わせて運行できる時間が決められるので個人の参入が容易で、運転手不足でタクシーが配車できない穴を埋められる。
・ユーザーが評価を決められるため、評価の低いドライバーは自然淘汰される。
・語学スキルや介護スキルなど、旅客運送以外のスキルを持つドライバーの参入は外国人や高齢者、障害者のユーザーにとってありがたい。

ライドシェアのデメリット

・タクシー会社と違い、特に車両の快適性は均一化されていない。
・車両にせよドライバーにせよ、結局は乗ってみないと良し悪しがわからない。
・自動ドアなどタクシー用の装備がない車がほとんど(海外では元々タクシーでもない場合が多い)。
・ドライバーにとっても、ユーザーが危険な人物だった場合などに緊急通報する手段が限られたり、同業者間の無線連絡による広域情報の取得が難しい。

タクシーとの競合が起こらない過疎地では「希望の星」

一方、ライドシェアへ強硬に反対するタクシー事業者そのものがあまりいない過疎地では、むしろライドシェアこそ希望の星という考え方もあります。

こうした地域ではそもそもタクシーを呼ぼうにも事業者が近くにないため時間がかかり、さらに赤字路線ばかりでバスなど公共交通機関が廃止されたため、移動もままなりません。

そのため通学時間などにタクシー会社が『乗り合いタクシー』として定期路線を運行しているケースもありますが、高齢者が病院や買い物に行きたくても自由になるものではないため、利用は非常に限定的です。

自治体やNPO法人が非営利運行する交通機関が『相乗り』的に運行されていたりはするものの、採算の面で厳しい上にインターネットとの連携が取れているとはいえないため、インターネットをフル活用する高齢者ばかりとなる近い将来にマッチしているとも言えません。

そのため、地域で手の空いた人間(過疎地なので大抵車を持っている)がライドシェアサービスにドライバー登録し、インターネットで利用者と結びつけることで、自治体の負担を減らしつつユーザーに大変有益なサービスとする事ができ、地域活性化にも役立ちます。

極端な話、農家で手すきの、まだ運転が可能な年齢のドライバーであれば誰でもライドシェア登録ドライバーになれて、軽トラ1台でも地域の助けになるわけです。

地域で共有するカーシェアと組み合わせれば、「誰かヒマな人、○○さんを病院に送迎して」という事もできるため、今後の少子高齢化社会でタクシー会社の維持が困難な地域では、まさに「希望の星」と言えます。

さらに過疎地以外に大都市でも「運転手不足で、車両をフル稼動させられない」という問題が既に表面化していますから、タクシー会社で余剰となった車両をライドシェア向けのカーシェア車両とする事で、問題解決する可能性もありです。

今はまだ法的ハードルが存在するものの、ライドシェアが日本で普及するのもそう遠くない、あるいは普及しないと社会が回らなくなるのは確実と思われます。