車を持つドライバーが報酬を得て同乗者を運ぶ『ライドシェア』。日本では白タク行為として違法なため、交通費のワリカン程度の『相乗り』までしか認められていませんが、過疎化が進行して公共交通が壊滅状態にある地方の過疎地では今後有効な交通手段として期待されています。

ライドシェアアプリ『Uber』を使った過疎地ライドシェア交通の試み

京都府の日本海側にある、京丹後市丹後町。

2004年4月の『平成大合併』で周辺5町が合併して京丹後市が発足する以前の丹後町では、人口5,392人(2017年4月1日現在)の4割が65歳以上の高齢者という少子高齢化と人口減少に歯止めがかからない割に大きな面積を持つ、日本の都市部以外ではどこでも見られる『過疎地』です。

ここで2016年5月26日、NPO法人『気張る!ふるさと丹後町』が運行する『ささえ合い交通』がスタートしました。

トヨタ プリウス(30系)や軽1BOX車など運行車両は18名の地元住民ボランティアドライバーが所有する自家用車で、乗車できる地域は丹後町内、降車できる地域は京丹後市全域というサービスを提供しており、丹後町住民のみならず観光客を含めた外部の人間でも利用可能。

運賃は初乗り1.5kmまで480円、以降1kmあたり120円となっており、おおむねタクシーの半額、当初はクレジットカード払いのみでしたが、2016年12月21以降は現金払いもOKとなりました。

当初はライドシェアアプリ『Uber(ウーバー)』をインストールしたスマートフォンで利用者自身が呼び出す方式のみでしたが、2016年9月18日からは『代理サポーター』が利用者に代わって配車も可能となっています。
ボランティアドライバーと言っても、

・アルコールチェックや健康確認など毎朝の対面チェックの実施
・全車両ドライブレコーダー設置
・車内に運転者証を掲示
・運賃表の車内掲示

と、体制はまさにタクシー並ですが、これは白タク行為にならないのでしょうか?

『公共交通空白地有償運送』の活用

京丹後市では鉄道(京都丹後鉄道)、バス(丹後海陸交通および京丹後市営バス)といった公共交通機関が存在していますが、丹後町には鉄道がない上に2008年に地元タクシー会社が撤退し、京丹後市営バスを除く公共交通機関の空白地帯『交通過疎地』となっていました。

こうした地域では2006年、『過疎地有償運送』の名で地元のNPO法人や社会福祉協議会が運行する『白タク』が特例として認められ、2015年4月以降『公共交通空白地有償運送』と名を変え、2019年1月時点でも全国で多数の団体が運行を続けています。

2009年に設立された、衰退する町を支える地域活動や公共交通提供を目的としたNPO法人『気張る!ふるさと丹後町』もその流れを受け、2016年に『ささえ合い交通』を始めたわけです。

NPO法人自体は非営利のため運賃収入の大半はボランティアが受け取り、配車サービスの手数料のみをUberが徴収するため、タクシーよりも安く運行できます。

「ボランティアなのに運賃を受け取るの?」と思う人がまだいるかもしれませんが、そもそも報酬を受け取らない『無償ボランティア』はなぜか日本で広まっていた固定概念で、そもそも最低限の報酬で活動する『有償ボランティア』も存在しました。

『ささえ合い交通』のドライバーは後者の有償ボランティアで、自らの時間と車、運転技術を提供する見返りを受け取っているに過ぎません。

タクシー業界の危機感と反発、「特区でもライドシェア参入は許さない」

『ささえ合い交通』が1周年を迎えた2017年5月25日、Uberのニュースリリースでは、毎月平均60回以上の利用実績、利用者の8割がスーパーや病院、役所などが集まる隣町(京丹後市 峰山町および同 網野町)へ行きたい丹後町の住民だったとか。

あくまで『丹後町から京丹後市内全域への片道交通』のため、隣町から戻りたい場合の配車には対応しておらず、その場合は現地のタクシー会社などを利用するしかありません。

そのため乗降範囲が拡大すればより利用しやすくなる…という声がある一方、周辺タクシー会社の危機感や反発は相当なものがあるようです。

何しろ『ささえ合い交通』の出発式が行われた2016年5月27日の1か月前、丹後町の隣町である京丹後市網野町では、遠い京都市にあるタクシー会社がわざわざ『網野タクシー』と『久美浜タクシー』を親切、出発式を執り行っています。

とはいえ、もともと採算が合わなくて地元タクシーが撤退したような場所ですから、たとえば『網野タクシー』設立時のの職員わずか4人でタクシーもたった2台、それですら人件費をかろうじて賄えるという厳しいスタートだったようですが、そこまでしてタクシー会社を作った理由はなんでしょう?

そもそも2015年9月に京丹後市は国家戦略特区として『交通空白地におけるライドシェア構想』を申請し、Uberによるライドシェア参入を積極的に歓迎する姿勢を見せていました。

それに対してタクシー業界側では「たとえ過疎地の特区でもライドシェアを認めたら、なし崩し的に都市部まで認めてタクシー業界を圧迫しかねない」と猛反発、京丹後市に特区申請撤回を迫るも「交通空白地をどうしたいの?」門前払いされたという経緯があります。

ならば空白地でなくすれば特区申請も通らないに違いない、とばかりに意地で設立したのは前述2社のタクシー会社で、実際に国からも『タクシー事業者空白地に限り白タクを認める』という通達が出たため、『ささえ合い交通』の配車サービスも現在は丹後町限定です。

過疎地を支えきれないタクシー会社に代わり、ライドシェアのフル活用を

しかし、京丹後市に新設されたタクシー会社が『ライドシェアの上陸を食い止めたいタクシー業界の意地』である事を認めてもわかる通り、採算度外視で無理にタクシー会社を作ったとて、関わった親会社の経営を圧迫するだけです。

そのような不採算部門はライドシェアあればこそ意地でも運行しているだけで、仮にライドシェア特区や限定的運行が廃止されれば、必要性を失って即座に撤退、再び交通過疎地を生んでしまう事は、火を見るより明らかとしか思えません。

ヘタにライドシェアをやりたい自治体をタクシー業界が潰しにかかり、タクシー業界が勝ってライドシェアを運行する団体が撤退したとしても、意気揚々と引き上げるタクシー会社が去った後の地域でペンペン草も生えないのでは、ただのタクシー会社の自己満足です。

そもそもなぜ公共交通が必要で、なぜ維持できなくなったのかを考えれば、タクシー会社はむしろ経営資源を都市部の短距離交通へ集中して、経営を安定させるためにライドシェアが必要だ、という視点を持つことが求められます。

もちろんタクシー会社が十分な収益を得て過疎地を支えられればライドシェアがなくとも文句はありませんが、そもそもそれが不可能だったからこそライドシェアを導入したいという自治体が出てきたわけです。

むしろ各自治体は地元のタクシー会社とよく話し合った上で、「交通過疎地からはライドシェアで出発し、帰りはタクシー会社を使ってもらう」など、両者の活性化を積極的に検討すべき段階に差し掛かっていると考えられます。

今後、バス・タクシー業界の人手不足は地方都市ですら交通過疎化を生む

さらに交通過疎化地域は今後、少子高齢化と人口減少の進む過疎地ばかりとは限らなくなっています。

何しろ少子高齢化と労働者不足はこれからの日本全体の問題ゆえ、人が集まる超巨大都市を除く地方都市ではバスやタクシーといった公共交通の担い手、すなわち運転手不足による路線減少や廃業、バスやタクシーがあっても運行できない事態が既に社会問題化しています。

特に30~40歳代の働き盛りドライバーの不足は深刻で高齢者ドライバーが無理なシフトで乗車しており、それを原因としたと思われる事故すら起きている現状では、『ライドシェア反対!』と言っても代わりの公共交通機関を提供できなければ、あまりにも無責任。

実際、地方都市の郊外にある団地や住宅地ではバス路線が減少して交通の便が悪化した上に、日によっては運転手を確保できないためタクシーすら配車に時間がかかる例が生じています。

スマートフォンを使ったタクシー配車アプリもありますが、手数料を取られるのを嫌ってか加盟していないタクシー会社や個人タクシーがまだまだ多く、アプリでタクシーを呼んでも「近くにタクシーがいません」と表示される事は多いのです。

むしろタクシー配車とライドシェアのアプリを統合し、ユーザーがどちらかを選んだり、タクシーが近くにいない時の命綱としてライドシェアを有効活用していかないと、地方都市ですら高齢者の移動がままならない時代が、もう既に始まっています。

音頭を取るのはどこでも構いませんが、まずは自治体による特区申請などで積極的にライドシェア普及を申請していかないと日本という国自体がいずれ成り立たなくなっていくでしょう。