2017年頃から、東京や関西、沖縄の空港を中心に、一般車用レーンで大きないくつものスーツケースや買い物をまとめた中国人観光客を送迎する大型ミニバンの姿が目立つようになりました。大抵はその場で現金を渡すわけでもなく、単に乗せて下ろすだけ。しかし毎回同じ人の車へ同じ人が乗るわけでもないので、友達が送迎しているようにも見えない。実は中国人限定の『白タク』行為を行っているライドシェアなのですが、実態を見ると単純にやめてくれとも言いにくい事情が見えてきます。

空港で乗り降りして、ドライバーも同乗者も『トモダチ!』

一時期は団体ツアーで来日し、観光地や電気街で観光や爆買い(大量の日本製商品を買い漁る)に興じており、そのための観光バスによる路上駐車が社会問題化すらしていた中国人観光客。

気が付けば国内輸出産業の壊滅で観光立国化しせざるをえなくなりつつある日本にとっては貴重な外貨獲得源の『お客様』ですが、2017年あたりから旅行スタイルがだいぶ変わってきたと言われています。

まず来日はツアーではなく個人単位で、空港の入国ゲートを抜けてまず向かうのはバス乗り場でもタクシー乗り場でもなく、一般車向けの乗降場。

そこでハイエースやアルファードなど快適そうな大型ミニバンへ大きなスーツケースを2つ3つと詰め込むや走り去り、ドライバーから案内を受けながら観光や買い物を楽しみ、ホテルへの送迎ももちろんそのミニバン。

そして滞在を終えると、また大型ミニバンで空港の一般車乗降場で降り立ち、お土産で増えた荷物をガラガラ押して、入国審査へ…ミニバンを降り立ったところで誰かから声をかけられても、『トモダチ!トモダチに送ってもらっただけ!』。

ドライバーへ聞いても『トモダチが来日したから、案内してあげたんだよ。』そう言われればそんな風にも見えるし、でも別な日には違う人を乗せていなかったっけ?『そう、みんなトモダチ!トモダチたくさんいるからね!』

本当にそんな人がいるかもしれませんが、その実態たるや中国のスマホアプリに登録した『ライドシェア』ドライバーがほとんどだそうで、もちろん日本では白タク行為として違法…と言いたいところですが、日本で現金の受け渡しをしている姿はほとんど見られません。

そのため取り締まりもかなり困難だと言われていますが、一体どうなっているのでしょう?

中国ライドシェアアプリのしたたかな現実

一応、時々これら『違法ライドシェアグループ』が捕まる事はありますが、ライドシェア中に証拠を抑えられたというより、別件逮捕してみたら銀行口座に妙な入金があったので、「これはどこから稼いだお金なの?」と問い詰めて、ようやく判明する事が多いとか。

中国では2017年11月からラクシーとは別に個人がライドシェアアプリを使って乗車希望客とマッチングする『白タク』が解禁されており、今や大手から中小まで多数のライドシェアサービスが乱立しています。

それ自体はいかなる問題や事件があろうと中国国内の話だから日本には関係ない…と思いきや、何とそれらライドシェアアプリの中には、東京や大阪、沖縄などに多数の登録ドライバーを抱え、数十人のドライバーを雇用する『白タク会社』まで存在するとの事。

もちろん日本では白ナンバーの自家用車で運賃を受け取る旅客運送業『白タク』は禁じられていますが、中国人白タク業者が捕まることはなかなかないのはなぜでしょう?

それは中国のライドシェアアプリは「微信支付(wechatpay)」や「支付宝(アリペイ)」といった中国版モバイル決済が可能になっており、一部モバイル決済、残りは日本で成功報酬というパターンもあるようですが、大抵は中国国内で支払いが済んでしまいます。

そのため、日本に来てから見ている分には「本当に友達が送迎しているのか、実は業者が送迎しているのか、全く見分けがつかない」わけです。

日本でもGoogleやLINEなど電子マネー決済はありますし、タクシー配車アプリの中には『JapanTaxi』のようにクレジットカードを使ったWEB決済対応もありますから、その気になれば同じことができそうにも思えます。

日本の会社がライドシェアアプリを運営している分には日本の国内法でいくらでも捜査できますが、海外のサービスなら無理だと言うなら、海外に拠点を置く会社が日本語サービスを行えば、何となく日本人相手でもできそうです。

それをやらないのは、今のところ日本語サービスを提供しているUberなど大手が将来も踏まえて日本の国内法を遵守しようとしているからだと思われますが、中国企業が中国のサービスを日本人向けに提供したらどうなるのか、少々興味深く感じます。

根本的な原因は『日本の外国人観光客受け入れ態勢の欠如と、壊滅的な公共交通』

しかし、中国人観光客にしろ日本国内での中国人ドライバーにせよ、ほとんどは「本当は日本でこれやっちゃダメなんだよね」と認識しており、それゆえ「これ白タクじゃないの?」と聞かれれば、「トモダチだから!」を連呼するわけです。

そこまでのリスクを犯して、あえて中国のサービスを日本で利用する理由を考えてみると、現在の日本が抱えているとてつもなく大きな課題が浮かび上がってきます。

まず、中国人観光客が日本でタクシーを使おうとして、言葉は通じるのかと言えば答えはNO!

時折中国語も話せるタクシードライバーがいたとしてもごくわずか、タクシー会社でも対策を練ろうにも英語すらロクに喋れないのに中国語を叩き込めるわけもなく、せいぜいカタコトで2、3言葉を発するのが精一杯。

しかも客から何を言われてもほとんど聞き取れないのですから、客の立場からすれば「何でその程度で金を取ろうと思っているの?」と非難されても反論できません。

中国のタクシー配車サービス大手『DiDi(滴滴出行、ディディチューシン)』はソフトバンクと提携して日本でのタクシー配車サービスを2018年9月から、まずは関西で始めましたが、中国の決済サービスを使えて中国語アプリもそのまま使えるものの、タクシードライバーとの会話はアテになるのかならないのか、アプリの翻訳機能でドーゾという段階。

これだけで中国人が日本のタクシーを利用したがらない理由としては十分ですが、タクシーそのものも日本はまだまだ小型セダンやプリウス程度がほとんどで、中国人観光客が積み込みたい多数のスーツケースやお土産の積載能力はなし。

かろうじて最近増えてきたトヨタのジャパンタクシーや日産のNV200なら対応できそうですが、車内のゆったり快適感も含めて「大型ミニバンで来てくれる中国人ドライバーの方が安くて対応もいいんだけど?」と言われて、誰が反論できるでしょうか?

ましてや、少子高齢化の進んだ日本ではタクシーなど小回りの利く公共交通機関がドライバー不足でタクシーはあれどフル稼働が難しくなっており、遠からず壊滅のピンチに陥っています。

要するに2019年1月現在の日本は、東京オリンピックや大阪万博を控えていようが何だろうが、観光立国だ外国人観光客への『おもてなし』など掛け声以上のものではなく、それどころか担い手すら不足して後継者不足にあえいでおり、とても対応できないのが現実です。

観光立国を現実にするには、外国人白タクを排除するのではなく、取り込むしかない

これまで日本人が日本語で生きていれば成り立っていた日本はもはや過去の遺物と化した、少なくとも個人観光客向け交通では既に現実と考えて良いと思います。

中国人白タク集団を苦々しく思っても、タクシー業界そのものが強硬に取り締まりを要望したいと思っても、では代わりに多数の中国人観光客をさばけるかと言えば無理な話で、単に嫌気のさした中国人観光客という『ドル箱』が逃げていくだけなのは想像に難くありません。

だからこそ報道こそ盛んであれ、熱意をもってこれを排除しようという論調ではありませんし、むしろ国内タクシー会社の力不足ばかりが目立ちます。

商業ライドシェアを推進(白タク解禁)したい団体などは『違法な白タク行為をしている中国人集団』と目の敵にしているように見えますが、では国内で商業ライドシェアを解禁すれば問題が解決して自分たちが中国人のみならずあまたの外国人観光客を引き受けられるのか、答えはやはり『おそらくNO』です。

ここに至り考えねばならない事は、ライドシェア解禁と同時に中国人白タクグループへ任意保険介入の確認や登録ドライバーの身元確認などで、観光客の安全を確保しつつ日本での商業ライドシェア制度へ取り込んでいくほかないでしょう。

確かに現状は違法ですが、中国人観光客の来日を支えているのはほかならぬ違法な中国人白タクという現実がありますし、東京オリンピックや大阪万博、さらにその先に誘致を目指す札幌オリンピックで国際観光後進国と軽蔑されるよりも、もはや現実に法律を合わせざるをえない、日本はそこまで追い込まれていると感じています。

中国人がズルイというより、時代にも国際情勢にも取り残された日本が、受け入れ体制も整わないまま無理に国際的イベントを立て続けに開催しようという方がオカシイのであって、むしろ中国人白タクは日本といういびつな国へ身の程を知らせる警鐘なのかもしれません。